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2008 1月号

特集 Power to the Art Education !

新年を迎え、読者各位にはご健勝のことと存じます。

本年は、新しい学習指導要領の告示が、3月にも行われることが予想されています。また、8月には、関西地区において、第32回 InSEA(国際美術教育学会)世界大会の開催が予定されています。そこで本年は、例年にもまして、図工・美術教育界にとって飛躍と充実の1年にする必要があると思われます。けれども、私たちの周囲を見回したとき、斯界がおかれている状況は、必ずしも楽観を許すものとは言えません。

長期的に見た場合、図工・美術教育の時間数の減少傾向は歯止めがかかっておらず、美術教育諸団体の要求にも関わらず、子どもたちに十分な実践の機会を保障できずにいます。この現実を私たちは直視し、打開に向け踏み出すべきでしょう。そのためには、図工・美術教育関係者はもとより、多くの人々のパワーを結集する必要があります。

このような時期にあたり、小誌では、読者の方を中心とした公募原稿の募集の企画を行いました。その結果、不十分な呼びかけと短い期間にも関わらず、50人近くの方から、ご投稿をいただきました。誠にありがたく、心より感謝申し上げる次第でございます。

今回の公募に際しては、あえて文字数には制限を設けませんでした。ここには、無尽蔵の情報量が許容されている電子空間が情報の中心と なっている今日、活字メディアとして、でき得る限りその環境に近づく挑戦をしたいという思いがありました。また、本来的に誌面の面積に制約 されていることの不自由さを形式的にせよ解放することで、内容面でも新しい展開を期待したいと考えました。

この結果、今回の企画の総文字数は、15万字を超えるものとなり ました。編集部では急遽、増頁を行い、対応いたしましたが、それでも、決して 読みやすいとは言えない誌面となってしまいました。けれども、ここには、投稿者各位の切実な思いが凝縮されていると信じ ます。何卒事情をご賢察ください。

なお、編集部では、今号ではどうしても収載しきれなかった数名の方の 投稿原稿をお預かりしています。これらにつきましては、次号以降に順 次掲載させていただきます。また、次頁以降に、企画趣旨及び、原稿公 募要項を掲載いたします。

●企画趣旨

戦前と戦後の美術教育のちがいは何か。教科書を開けば、それは一目瞭然です。戦前にはなく、戦後になって初 めて生まれたもの、それは「子どもの絵」です。

「新定画帖」以来、1945年までの教科書に、子どもの絵はただの1枚も掲載されていません。もちろん戦前にも児童擁護の救済思想は、一部で主張されてはいました。けれども、子どもという存在が独自の文化として認知され、とりわけ、その表現が、一人ひとりの子どもの個性の表われとして意識され、尊重すべきだと考えられたのは、たかだかこの60年あまりのことにすぎません。つまり所謂「児童画」は、戦後という時代の価値観を反映して生まれたと言えます。言い換えるなら、今日の図工・美術教育が根拠としてきたものは、この「戦後」的な価値観であったと思われます。

これによって、つまり子どもの立場に立つことによって、図工・美術教育は、それなりに豊かな成果を示し、子どもたちの個性や感性を育んできました。とりわけ、「子ども」という存在の理解に関して、直感的な子ども肯定論を、精神史や発達論によって捉え直し、「子ども」という概念が独自の文化的存在であることを明らかにしたことは大きな意味があったと思います。

また、この教科に不可欠である作品のイメージの質についても、美術という枠組みの中における「再現」の修練、すなわち「あったものをつくること」ではなく、まさしく、想像と創造の意味する「あったものではないものをつくる」という次元へと進化しつつあることは、自負すべきと思います。そして、これらの成果により、小学校において「造形遊び」が企図され、緒論はあるものの定着しつつあることには期待が持てる気がします。

けれども、昨今、その「戦後」の価値観を否定、あるいは超克すべきだ という論調が台頭してきていることを感じます。ここには、戦後の個人主義社会が、個性化という課題を、ある意味でクリアしてしまったという事情があるのかもしれません。このため、今や個性的であることを声高に主張することは、むしろ陳腐化しており、「児童の個性の伸長こそ新しい教育の目標」であるとは単純に断じえない状況もたしかにあります。

私たちは無数の差異の中から選択するシステムに当面しており、そこに矮小化された個性を延命させているにすぎないのではないという不安を 感じます。しかしそれが、管理社会の産物であることは誰の目にも明らかでしょう。かつては、明確に子どもを救うための手段であり、方法であり、思想であった美術の力を、今こそ再構築することが切実に求められていると思います。これはもちろん、温順な子ども像への郷愁や旧来のシステムへの回帰を意味するものではないはずです。シンプルで明快な図工・美術教育の現代化を目指すべきでしょう。

他方、図工の美術教育に様々な課題や困難があることは、絶えず指摘されてきました。しかし、それは概ね斯界の内部問題と捉えて、教育課程の改善を図ることで克服しうるという楽観があったように思います。けれども、戦後美術教育の根拠自体が揺らいでいる現状にあっては、生 半可な決意ではこの状況を打開することはできません。新しい視点からのみずみずしい提案と実践が求められています。

そこで、小誌では、下記の問題点を指摘し、斯界の現状を打開すべく、読者の皆さんの意見と提案を求めたいと考え、問題点を以下の3つのマ トリックスに整理し、それぞれの具体的課題を提示させていただきまし た。

1.教科論 2.指導論 3.教師論

1-1 既成の表現ジャンルにとらわれない「造形遊び」のような目的的でない表現活動をどう考えていくべきか。
1-2 造形教育は読み、書き、計算のようにツールとしての知識・技術の教育としての方向を歩むべきか、情操を豊かにするという方向に特化 していくべきか。
1-3 わが国の産業、生産と消費など生活に関わって造形教育は有効に機能してきたか。
1-4 教育課題の中でLD、ADHD、アスペルガー症候群など学習障害に造形教育は貢献できるか。
2-1 成果主義の導入により画一的な指導が行われるようになってきたか。
2-2 コンピュータなど現代的な表現機器は教育的な意味を見出すか。
2-3 鑑賞教育の重要性が指摘され、表現に関わる時間が減少してきたが、指導が形骸化していないか。
2-4 保護者の芸術観と指導の観点に大きな開きが感じられるか。
3-1 研究会、研修会は自らの指導姿勢を改める機会となったか。
3-2 指導場面に関わって表現の技術と児童・生徒の理解のどちらに重点をおくべきか。
3-3 学校では他の教科や活動よりも造形活動に関わる教科は後回しにされることが多いか。
3-4 目の前の子どもに自信を持って、オリジナリティーのある題材を提案できるか。

以上につき、ご意見をお寄せください。この編集部の趣旨に対する、ご意見、反論等でも、けっこうでございます。なお、原稿をご執筆いただ く際には、なるべく、これらの符号を明示いただき、具体的な論考をお願い致します。皆さまの建設的なご意見をお待ちしています。

2007年11月2日「美育文化」 編集長 穴澤 秀隆



●原稿公募要項

■原稿締め切り日 2007年11月26日(月)
■タイトル 原稿には適当なタイトルをお付けください。
■文字数
原稿の分量には制限はありません。締め切り日までに、お送りいただい た原稿を到着順に基本的に全文を掲載することをお約束します。
■ご送稿方法
原稿は基本的にEメールにてお送りください。ただし、CD- ROM、MO等に入れて、ご郵送いただいてもけっこうです。また、 手書きの原稿も申し受けますが、この場合には、到着順に掲載できない可能性があります。
■写真・図版
文中に写真や図版を使用される場合は、その旨ご指示願います。
■掲載号
掲載号については、2008年1月号(12月末発行)を予定していますが、誌面の都合により、1月号以降の掲載となる場合もありますので、その旨、ご承知おきください。



1月号 美育インタビュー

認知心理学者 佐伯 胖 さん
子どもでいるということは、その子どもの中に蠢いているものを丸ごと肯定することでしょう。「子ども性」を軽んじることはそういう本質的なものを捨ててしまうことになりますね。
さらに言うと、大人には、もちろん子どもの時代があったわけだから、子どもの絵を見たとき、「ここにいるのは、かつての私かもしれない」 とごく自然に思うかもしれません。つまり、そこに共感が生まれます。
そのようにして、子どもを子どもに還すと言うか、子どもが子どもであることをおおらかに肯定する姿勢は、その人の根源的能動性の回復に大きな役割を果たすことになるんです。…続きは本誌で


表紙:
第37回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「きりんさんとお花」
ホー・チンシェン
中国(香港) 4歳女

表紙

裏表紙:
第37回世界児童画展
国内の部・全国造形教育連盟賞受賞作品
「キリンの親子」 大江 義浩
広島・広島市・広島和光園保育園 4歳

裏表紙

 

目次

特集:Power to the Art Education !

美育インタビュー 認知心理学者  佐伯 胖さん…9

公募原稿
Power to the Art Education !

島﨑清海+橋本忠和+薬本武則+大橋晧也+薮内好+森高光広+小浜かおり+山﨑寛子+江渡英之+鎌澤由江+川島真紀雄+櫻井俊夫+永関和雄+佐々木孝+洲崎早苗+武田信吾+太田裕子+大津義明+亀井幸子+山木朝彦+古澤圭子+山口拓也+野口徳雄+森裕二郎+泉大吾+中谷隆夫+石川清子+佐藤完兒郎+上山浩+五十嵐昭日子+野崎龍雄+鈴石弘之+大橋功+柳沼宏寿+荒川洋子+長島春美+辻政博+山崎正明+田俊培…15

熊本文庫主要文献解題
美術教育論の変遷とその周辺13

新関伸也+永守基樹+春日明夫+鈴木幹雄+山口喜雄+藤澤英昭+柴田和豊+佐藤昌彦+天形 健+吉野朋美+坂本 晶+福本謹一…68

授業研究 香川県

幼児   自然からの贈物に出会う…藤原沙耶香…74

小学校低学年  やぶって、ぬって、もようづくり 76…宮武 紀子…76

小学校中学年  もようたんけんたい!とびらを開けると…宮脇美津子…78

小学校高学年  あれ?よく見ると…岡 啓介…80

中学校   マンガ文化考…河内 直人…82

連載
「つくりだす喜び」をはぐくむ
第10回 造形美術教育の再チャレンジ(その1)…板良敷 敏…84

COMPUTER NOW File 0038
パッケージデザインと広告効果…塙 典子…90

BOOKS

新刊紹介
『美術のちから 教育のかたち〈表現〉と〈自己形成〉の哲学』
上野 浩道 著…矢野 智司…92

新刊紹介
『芸術療法の理論と実践―美術教育との関わりから―』
今井 真理 著…東山 明…93

新刊紹介
『幸福の瞬間 ―アジアを生きる子どもたち―(写真集)』
佐藤完兒郎 写真・著…金田 卓也…94

連載 幼児のひろば 第19回

愛知・名古屋市
多加良浦保育園
下里 米子8、 97

InSEAニュース…福本 謹一…95

美育ニュース…96




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