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2003 7月号

特集 デジカメ調理法

 デジタルカメラ(=デジカメ)は、フィルムが不要であり、現像、プリントに要する費用も極めて安価なことなどから、教育現場においても、かねてよりその活用の可能性が期待されていましたが、近年は解像度も高度化し、また、それを保存するパソコンの容量も飛躍的に増大したことなどにより、急速に普及しているようです。

 また、デジカメは一般に軽量でコンパクトなことから、子どもにも扱いやすい機材だと言えるかもしれません。さらに「表したい内容を漫画、イラストレーション、写真・ビデオ・コンピュータ等映像メディアなどで表現すること」という内容が、中学校学習指導要領に盛り込まれたことも、この状況に拍車をかけていると推測されます。

 ところで、デジカメの画像は、データとしてパソコンに取り込み、加工が可能であるところに特色があります。これはデジカメが客観的な記録媒体から、創造的な表現機材へと発展する可能性を示しています。
 しかし、このことはむしろ、デジカメデータは加工されることを前提とした一次素材であるとも考えられます。厳密な意味では、データをパソコンに取り込んだ時点で、すでに情報の選択が行われており、それは「加工/表現」の第一歩であると言えるかもしれません。すなわち、ここには如何なる情報にも常に作り手の主観が介在するという、情報の本質が表われているように思われます。

 他方、従来のスチールカメラには、撮影、現像プリントという工程とそれに要する時間がありました。これにより、撮影という「表現」とその「鑑賞」が時間的にも、手順としても区分されていましたが、デジカメにおいては、ほとんどそのタイムラグがないため、表現と鑑賞は極めて密着したものとなっています。事実、撮影した画像をその場でチェックし、満足できない場合にはすぐに撮り直すことは一般に行われています。
ここでは、どこまでが「鑑賞」であり、どこからが「表現」なのかという意識は希薄であり、図工・美術教育が機軸としている「表現」と「鑑賞」の関係は曖昧なものとなっています。別の言い方をすれば、デジカメは「表現」「鑑賞」の相互乗り入れに便利な機材であると言えるかもしれません。

 しかし、コンピュータやデジタル情報への親近感のみをベースにした情報教育は、情報化社会の根源的な問題を問わない情報教育となる危険性があることはかねてより指摘されています。また、パソコンを学校現場に持ち込んだ論理には、必ずしも子ども本位のものとは言えなかった面があります。さらにアナログ/デジタルという入力システムの差異が、どこまで思考や表現に影響するのかということは未知数でしょう。

 そこでそれらの事情も勘案しつつ、この号では、授業効率やメディア社会に適合する必要から構想するのではなく、デジカメが子どもにとって使いやすいメディアなのか、またどのような利用法が子どもの表現にとって有効なのかという視点からその可能性について考えてみたいと思います。


表1:
第33回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「ヨット」 サチス・ディルショウ・ペリス
スリランカ 6歳男

表紙

表4:
第33回世界児童画展
国内の部・美育文化協会賞受賞作品
「白い船に乗って」 山岡 泰浩
高知・南国市立稲生小学校3年

裏表紙

 

目次

特集:デジカメ調理法

美育インタビュー メディア・アーティスト  八谷 和彦 さん…7

裸のデジカメ・シェフ
おいしい視覚表現のレシピ…本村 健太…13

デルカメはどこへ行く 
デジタルカメラの現在と未来…井原 潤…20

デジタルカメラは何をもたらす?…高野 直美…26

身体表現と絵画表現を結び付ける
デジタルカメラの利用…丁字かおる…32

映像のデジタル化がもたらす新しい表現と鑑賞…村松 和彦…38

メディアをじゃぶじゃぶ使う子どもたち…佐藤 幸江…44

デジカメ私の実践

デジタルカメラは新しい表現ツール…高橋 律子…56

アナログでもディジタルでも…小山ゆかり…50

デジカメで広がる表現と鑑賞…小林 正子…52

視点を変えてみてみよう…松永かおり…54

授業研究 山口県

幼児   みんなで作ったデコレーションケーキ…野間 俊彦…56

小学校低学年  お気に入りの版遊びコレクションをつくろう…佐々木真治…58

小学校中学年  草花がすてきに見える花器をつくろう…菅野 雅人…60

小学校高学年  ハッピーチャイルドパラダイス…小野 素子…62

中学校  瞬間をとらえる…足立 直之…64

Eメールトーク 第8回 
子どもにとっての風景、そして「見ること」へ
谷口幹也+相田隆司+ 三根和浪+吉田貴富 +隅 敦+西村徳行…66

新刊紹介

『ルソーの時 インタラクティヴィティの美学』…小野 康男…74

『子どもたちに美術のうたを』…三浦 浩喜…75

『子どもの絵の発達過程』…安斎千鶴子…76

美育ニュース…77




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