子どもたちは日常の暮らしや学習活動のなかで様々な情報や技術と出会い自らの世界を拡げていきます。
小学校の学習指導要領では、「親しみのある美術作品や製作の過程などのよさや面白さなどについて,感じたことや思ったことを話し合うなどしながら見ること」(中学年)や、「我が国や諸外国の親しみのある美術,暮らしの中の作品などのよさや美しさ,表現の意図などに関心をもって鑑賞すること」(高学年)が求められており、一方、中学校でも、「日本及び諸外国の作品の独特な表現形式や構成,技法などに関心をもち,自分の表現意図に合う新たな表現方法を研究するなどして創造的に表現すること」(2・3学年)が示されています。これらはいずれも、
子どもたちが作品などから自分から進んで学び取ったり、感動を得ることを尊重しているものと思われます。
よく職人の世界では「技術は人から教わるのではなく、盗むものだ」と言われますが、これは必ずしも教えることを否定したり軽視しているのではなく、学習する側が意欲をもって学び取った内容を自分自身の方法として身につけることの大切さを言っている気がします。
子どもの造形活動では、思いがけない方法を子ども自身が発見したり、効果的な表現を試行錯誤の中から見つけ出すことがしばしばあります。このような「子どもが見つけた技」は、教師から技術や方法を教えられたときよりもはるかに深い感動を伴い、他の子どもにもいい意味での影響を与えるものとなります。さらに、それが「子どもの文化」として異年齢の子どもたちに受け継がれていくこともあります。また、すでに知られ一般化している技術や方法であっても、それを自分の目で発見し、確認したときの感動は、子どもの内面に深く刻まれるものと思われます。
このような子ども自身が技を見つける場は、教室だけではなく、日常の暮らしの中や、遊びの中などあらゆる場面で体験できますが、とりわけ、高度な技術や専門的な知識をもった人やその仕事から直接に学ぶ機会が得られた場合は、子どもたちがその分野への興味や関心を一層深められることが期待できます。
近年、図工・美術の教育では、アーティストや職人を訪ねたり、地域の産業や伝統的な行事や工芸品学ぶことが、さまざまな形で行われていますが、ここには実体験や現場を通して得られるリアルな知識こそが、生きる力につながるという認識があると思われます。
しかし、そこで注意すべきは、いかに優れた技術や貴重な文化遺産であったとしても、受け止める側に主体的な関心やそれを価値づけるコードがないかぎりは、単なる知識やそれ以下の権威に終わってしまい、かえって子どもたちを豊かな文化から遠ざけてしまう結果になりかねないことです。「優れたものだから価値がある」として、子どもたちに押し付けるのではなく、あくまで子どもの視点から文化を読む姿勢が求められます。
他方、自由な表現や個人の創造性を基調としてきた図工・美術の教育では、技術を創造性とは背反するものとみなす傾向があったように思われます。もちろん技法や技術本位の指導が、子どもの立場に立った教育でないことは明らかですが、学習や暮らしの中から、子どもが技を発見することは子どもの生活そのものであると言えます。また、その枠組みを押し拡げ、豊かな経験と世界に出あうチャンスを積極的に子どもたちに与えていくことには、さらに大きな意味があると考えます。
そこでこの号では、各地の図工・美術教育の現場の先生方の実践を中心に、「子どもが見つけた技」について考えたいと思います。
作家 小関智弘さん
私たちの子どもの頃の遊びと言えば、メンコ、ビー玉、ベエゴマというあたりが思い浮かびますが、私の場合は、とりわけベエゴマに熱中してました。
当時の子どもたちは、買ってきたベエゴマをそのまま使うことはほとんどなく、自分たちで削ったり研いだりして、それぞれ手を加えていたんです…続きは本誌で
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特集:子どもが見つけた技
美育インタビュー 作 家 小関智弘 さん…7
創造的な技能と発見される技…藤澤英昭…13
身体で学ぶ先人の精神…佐藤昌彦…18
コップ!ステップ!アニメーション!…山田一文…22
生徒が発見した技…近藤康太…28
和菓子職人から学んだ造形活動…池田真理子…34
つくることにおける技の獲得と活用…小林貴史…40
子どもが発見する技術 in コンピュータ・グラフィックス…鈴木豪…44
手わざでない技・見方の技…玉城真…48
授業研究 岡山県
幼児 またあしたしたいな…小西晶子…52
小学校低学年 ミイラにへんしん!→さあどうぞ! スペシャル○○のかんせいでーす…森岡浩美…54
小学校中学年 おはなしステージ…安東信哉…56
小学校高学年 プロジェクトX 校庭をアートしよう…岡根誠…58
中学校 あなたの好みはどの器? 和食器を鑑賞しよう!…平田朝一…60
連載 Computer Now File 0020
夢のある食品をデザインしよう…荒井康郎…62
Eメールトーク 第12回
造形遊びを積み上げよう!
達富洋二+栗田真司+ 野切 卓+中田 稔…64
連載 高校フォーラム 第21回
「生きる力」を育てる「自主課題製作」…池田正…70
美育ニュース…71