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2005 5月号

特集 美術は子どもを救う

『…日本では最近全国あるいは地方児童画展など、はなやかな脚光をあび、うわべでは、躍進をとげたとさえ見える。/しかし、実際は、欧米の進んだ国では常識となっている児童の生まれつきの創造力を励まし育てるという原則でさえも、確立どころかまだ一般に知られていないありさまではないか。児童の創造力を伸ばすことは児童の個性を鍛える。児童の個性の伸長こそ新しい教育の目標だ。…』

この国の美術教育の現状を憂慮し、慨嘆している上記の文中にある「最近」とは、いつのことか? それが少なくとも、私たちの今、すなわち21世紀の初頭でないことは、前段の「脚光をあび…」以下の肯定的な状況認識から推察できる。なぜなら、今日、全国規模あるいは地方での児童画展は、関係者の努力にも支えられ、地道に継承されてはいるとは言え、「はなやかな脚光」をあびたりはしていないからだ。他方、後段の「児童の生まれつきの創造力を励まし育てるという原則でさえも、確立どころかまだ一般に知られていない」という告発は、未だ失効しておらず、尖利な批判の鏃として私たちの胸元に迫ってくる。

この文章は、小誌の52年6月号に初めて掲載され、後に戦後美術教育のマニュフェストとして広く知られるようになった「創造美育協会宣言」、所謂「創美宣言」の一節だ。戦後60年という節目にあたるこの年に際して、戦後美術教育の出発宣言とも言えるこの糾問の意味を重く受けとめたい。

けれども、その一方で、戦後の慌ただしくもあり、またある意味では、けだるく流れ過ぎた時間に棹さし、不断に積み重ねられてきた図工・美術教育者の誠実な実践は、それなりに豊かな成果を示し、子どもたちはたしかに美術によって救われてきた。とりわけ、「子ども」という存在の理解に関して、創美の直感的な子ども肯定論を、精神史や発達論によって捉え直し、「子ども」という概念が独自の文化的存在であることを明証したことは大きな意味があった。

また、この教科に不可欠である作品のイメージの質についても、美術という枠組みの中における「再現」の修練、すなわち「あったものをつくること」ではなく、まさしく、想像と創造の意味する「なかったものをつくる」というシュミュラークル的次元へと進化しつつあることは、自負すべきだろう。そして、これらの成果により、小学校において「造形遊び」が企図され、緒論はあるものの定着しつつあることには期待が持てる。

けれども、そのような状況を勘案したとしても、冒頭の告発に対して、私たちは鬱向かざるを得ない気がする。それはおそらく別の事情があるためだろう。そのひとつは「創美宣言」において、言わば自明ものとしてきた創造性や個性という概念自体が揺らいでいることではないか。

戦後の個人主義社会は、個性化という課題を、創美が標榜した思想と方法によってではなかったかも知れないが、ある意味でクリアしてしまった。このため、今や個性的であることを声高に主張することは、むしろ陳腐化しており、「児童の個性の伸長こそ新しい教育の目標」であるとは単純に断じえない状況がある。

私たちは無数の差異の中から選択するシステムに当面しており、そこに矮小化された個性を延命させている。しかしそれが、管理社会の産物であることは誰の目にも明らかだろう。かつては、明確に子ども救うための手段であり、方法であり、思想であった美術の力を再構築すること、戦後60年の成果を私たちはそこに見いだしたい。



5月号美育インタビュー

美術教育家 野々目 桂三 さん
聞き手 鈴石弘之 さん (東京・新宿区立四谷第四小学校)

野々目さん:「二千万人の不幸」という有名な言葉がある久保貞次郎の『子供の絵』 が出版されたのは、私が郷里の福井で教員になった2年目の時でした。そのとき、先輩であり、後に創美の最も先鋭な活動家になった木水育男さんから、『子供の絵』の前に出版された『児童画の見方』とホーマー・レインの『親と教師に語る』の2冊をぜひとも読むように薦められました。これが私にとっての美術教育との出会いだったわけです。
原爆によってとっくにパンドラの箱を開けられてしまったわけだから残ってるものは、希望しかないじゃないですか。それが子どもであり、子どもにしか希望はない、そう思っているんです、私は。…続きは本誌で


 

表紙:
第35回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「秋」
ストリッチ・レナサハリン
(ロシア)9歳女

表紙

裏表紙:
第35回世界児童画展
国内の部・美育文化協会賞受賞作品
「ネコのおかあさん」
渡部 智貴
福島県・田島町・田島保育所 4歳

裏表紙

 

目次

特集:美術は子どもを救う

美育インタビュー 美術教育家 野々目桂三さん…7

体験学習が創造性をはぐくむ…堀 真一郎…15

「創造美育運動」とその今日的意味…新井 哲夫…22

I LOVE IT, I LOVE IT SO MUCH!…矢木 武…28

子どもたちがいきいきと取り組んだ絵の授業…古澤 圭子…34

熊本文庫主要文献解題 創造美育運動

飯塚淑光+池内慈朗+ 宇田秀士+岡崎昭夫+ 喜久山 悟+黒島清美+ 郡司明子+谷口幹也+ 辻村 岳+長瀬達也+ 名達英詔+南部正人+ 西村徳行+降籏 孝+ 茂木一司+山田芳明…40

授業研究 福岡県

幼児   「リング ウェーブ」の製作…前田志津子…50

小学校低学年  グチョグチョ ペタペタ…家入 禎博…52

小学校中学年  まほうの○○から生まれた世界…朝倉 謙吾…54

小学校高学年  土と水と風と太陽がつくる色…笹原 浩仁…56

中学校   ペーパーウェイト…山下 吉也…58

連載 子どもの育ちと表現
―絵画表現に立ち現れる6年間のいのちの軌跡―
第3回 S君…鈴石 弘之…60

連載
computer now File 0024
短時間でもできるパソコン教材の工夫…青木 孝浩…70

連載 高校フォーラム 第25回
「陶芸」に取り組んで…新谷 勉…72

連載 幼児のひろば 第5回
静岡・富士市  富士ふたば幼稚園  今村 淳…6、79

NEWS  美育ニュース…73




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