2008年に関西を中心に美術教育の国際大会であるInSEA(International Society for Education through Art=国際美術教育学会)の開催が予定されています。
このような美術教育の国際大会は、1998年にアジア地区大会が東京(会場:青山学院大学、他)で開かれていますが、世界規模の大会としては、1965年に東京でInSEA大会が開催されて以来、40年ぶりの国際的なイベントとして期待されています。
東京五輪の翌年の1965年に開かれた大会では、海外の美術教育思潮を摂取し、そこから何を学かということが、中心課題のひとつとなっていました。しかし、当時と比べ、今日、国際化の意味や実態は劇的に変容しています。
交通手段や情報・通信メディアの発達により、国際化はすでに到達目標ではなく、私たちの身近な環境となっています。
また、この状況を前提として新たな世界秩序を再構築しようとするグローバリズムが米国を中心に提唱されています。けれども、その一方、民族間の対立や宗教間問題は、むしろ深刻化しており、グローバルスタンダードからは疎外されているマイノリティの存在を尊重する必要が切実に求められています。
今日、国際理解教育は新しい教育課程の柱のひとつとして、すべての教育課程において展開されることが掲げられています。これは、偏狭な民族主義や国家観にとらわれない教育の実現には、多様な文化の摂取と理解が不可欠であるためです。
ところで、図工・美術の教育には、人類の共通言語とも言うべき造形表現によるノン・バーバルな教育としての側面があります。これは、一般に国際理解教育が直面する「言語の相違」というハードルがはじめから取り払われていることを意味しており、この教科が国際理解教育に好適であることを示唆していると思われます。
さらに、この2008年のInSEA日本大会は、新しい教育観の基調ともなっている子ども主体の教育を世界に向けて発信する絶好の機会であると思われます。
そこでこの号では、InSEA 2008 JAPAN(InSEA日本大会)の意義と美術教育でできる国際理解教育の意味について、実践の中から考えてみたいと思います。
日本画家・東京芸術大学学長 平山 郁夫 さん
美術教育が感性を育て、文化理解や国際理解に欠かせない基本的な教科であること は、これまでも多くの人たちより主張されてきました。
けれども、実際には今日の日本の教育では、相変わらず、ペーパーテストに代表さ れる偏差値重視の教育観がまかり通っているように思います。
ですから、2008年に開催が予定されているInSEA日本大会のような機会に美術教育の重要性を内外に訴え、美術の先生自身も研究を深めていくことは大変意義のあるこ とだと思っています。…続きは本誌で
第35回世界児童画展 海外の部・外務大臣賞受賞作品 「魔法の森にいるユニコーン」 フェルナン・キロス コスタリカ 11歳男 |
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裏表紙: |
特集:世界に発進する美術教育
美育インタビュー 画家・東京芸術大学学長
平山 郁夫さん
取材協力:三澤一実さん 7
「美術を通しての教育」を社会にアピールするために
InSEA 2008 JAPANの意義…福本 謹一…13
子どもの存在と国際理解教育
「共有」と「共存」を目指す美術教育…大坪 圭輔…20
コミュニケーション・メディアとしての造形表現
国際理解教育のためのてがかり…佐藤 優香…26
韓国図工交流2005夏秋
海峡を渡った『トントンギコギコ図工の時間』…内野 務…32
アートランチ・プロジェクト
同一テーマによる授業実践国際交流 福本 謹一 + 大津 雅子 40
世界児童画展の鑑賞を通して…池田 秋子…46
熊本文庫基本文献解題 1
美術教育論の変遷とその周辺
金子一夫 + 向野康江 + 泉谷淑夫 + 仲野泰生 + 相田隆司 + 山口喜雄 + 三浦睦美 + 鈴石弘之 + 西村徳行 + 長瀬達也 + 天形 健 + 柴P 裕…50
授業研究 山形県
幼児 水やどろんこ お祭りワッショイ!…齋藤まり子…56
小学校低学年 おいでよ!ぼくらのわくわくのもり…難波 典子…58
小学校中学年 見つめてみると…とび出せ!○○○の絵…小川 尚道…60
小学校高学年 あふれる思い 形にしたら…神野 恭一…62
中学校 尾形光琳をさぐる…牧野 呂蘭…64
連載 子どもの育ちと表現
―絵画表現に立ち現れる6年間のいのちの軌跡―
第7回 クラス全員の「砂の人」(6年)をみる…鈴石 弘之…66
連載
computer now File 0028
遊べるCG表現 小坂尚照+上山 浩…70
連載 幼児のひろば 第9回
和歌山市・じろうまる保育園…楠見 良子…6、79
美育ニュース…76