『美育文化』とは | バックナンバー一覧 | 購読しませんか? | 見本誌ご希望の方は


2006 9月号

特集 “みる”出来事

「鑑賞教育をいかに位置づけるか」という問題は、今日、図工・美術教育にとって愁眉の課題となっており、そのあり方をめぐって様々な研究が行われ、成果をあげていることが報告されています。しかし、その一方、この論議は、図工・美術教育のパラダイムそのものを論じる問題に置き換えれているようにも思えます。

小誌では、かねてより、「創造的鑑賞教育」という提案をしてきました。ここには二つの観点がありました。その第一は、「表現」と「鑑賞」を相互浸透させ、子どもの表現活動をいっそう促すような鑑賞教育のあり方を探ることであり、第二は、「鑑賞」をいう言葉に付着している受動的な姿勢を再考し、子どもの主体的、積極的な行為としての鑑賞活動を目指すことでした。

ところで、今日、誰もが認める図工・美術教育の立脚点は、「子どもの表現の尊重」という理念だと思われます。「表現」は当然「発想」に由来します。このため、子どもの表現の尊重は、子どもの発想の尊重と同根同義である必要があります。さらに子どもの表現の尊重ということは、子どもたちに表現の場と機会を制度的に保障するという善意の発露でも、行政的レベルの目標でもなく、子どもの表現が独自の文化であることへの切実な共感であると思われます。

それゆえ、いわゆる鑑賞教育においては、子どもの発想への共感が、まず求められていると考えます。つまり、子どもの独自の表現が尊重されるべきことと同様に、子どもならではの見方や捉え方に共感し、それを伸ばすことが、子どもにとって“みる”という出来事を豊かに育てることになると考えます。

ところで、去る6月、ベネズエラ出身の米国の美術教育家、アメリア・アリナス氏が来日し、同氏の提唱する「対話型鑑賞法」に関する、シンポジウムやワークショップが各地で行われました。この対話型鑑賞法が、従来の言わば教授型の観賞法と異なる点は、何より子どもの自由な発言が期待できることであると思われます。

文化遺産の継承・伝達は、まさに教育の主要な目的であることは間違いありません。けれども、一人ひとりの個性を尊重し、創造的な能力を培うことが強く求められているこの教科において、鑑賞の指導が単なる美術文化の知識の習得に終わってはならないことは当然です。

むしろ、重要なことは、子どもの生活や発想、興味・関心などにそって、従来の美術文化の歴史を読み直し、組み替えて、子どものコードに従って提示していくことではないでしょうか。鑑賞教育は、子どもの発想に基づき、“みる”という出来事を豊かに拡げていくための方法ではないかと思われます。

そこでこの号では、「“みる”出来事」というテーマで、図工・美術教育における鑑賞のあり方と実践について考えてみたいと思います。



9月号美育インタビュー

アートプロデューサー 北川フラム さん
 まず学校の図工・美術の時間割が少なすぎる。中学校になると、ほぼ週に1時間くらいしかないようですね。これはめちゃくちゃなことですよ。
  美術の制作というのは、ベルが鳴った瞬間から始められるものではないでしょう。先生はそれなりに準備したり説明する時間が必要です。そのうえで、「では、始めましょう」ということになる。授業の終わりにしても、片づけたり、掃除をしたりする時間が必要だし、あるいはできあがった作品をみんなでじっくり眺めたりしたいですよね。…続きは本誌で


表紙:
第36回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「秋」 モニカ・ザック
ポーランド 7歳女
表紙

裏表紙:
第36回世界児童画展
国内の部・読売新聞社賞受賞作品
「パステル城の王女様」 中山 晴加
東京・調布市立布田小学校4年

裏表紙

 

目次

特集:“みる”出来事

美育インタビュー アート・プロデューサー  北川フラムさん 7

なぜ子どもに美術鑑賞が必要なのか…上野 行一…13

アメリア・アレナスと子どもたち…三澤 一実…20

見る・作る・知る、そして問いかける 山口健二・森弥生・ 赤木里香子…26

からだ全体で楽しく「みる」パブリックアート…泉 大吾…36

子どもの「みる」「遊ぶ」「語り合う」を活かした創造的な鑑賞の授業…日高 和広…42

鑑賞から制作へ アンディー・ウォーホルの作品から…北根 晃一…46

熊本文庫主要文献解題
美術教育論の変遷とその周辺5

坂本 晶+玉井弥生+天形 健+長澤博昭+ 池田真理子+横内克之+山口喜雄+鈴石弘之…50

授業研究 京都府

幼児   あそびの中から生まれる表現…濱上真由美…54

小学校低学年  つなげて つなげて…柴田 万貴…56

小学校中学年  さわって さがそう…宮川 紀宏…58

小学校高学年  たん生! 私のストーリー…竹内 晋平…60

中学校   オリジナルブランドをつくろう…大谷由紀子…62

連載
「つくりだす喜び」をはぐくむ
第2回 造形美術教育の目標…板良敷 敏…64

連載
computer now File 0031
ケータイがつなぐ、ケータイでつながる…辰巳 豊…72

BOOKS
『日本美術の鑑賞』
東京国立博物館監修…泉谷 淑夫…74

投稿
抑えきれなかった破壊の衝動…島崎 清海…75

連載 幼児のひろば 第12回

千葉・柏市  豊四季幼稚園  加藤かおる 6、79

NEWS  美育ニュース…76





『美育文化』とは | バックナンバー一覧 | 購読しませんか? | 見本誌ご希望の方は
このページのトップへ