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2009 11月号

特集 アート・プロジェクトって何?

 各地でアート・プロジェクトという催しがさかんに行われています。

 このうちまず思い浮かぶのが、横浜トリエンナーレ、越後妻有トリエンナーレなど、コンテンポラリーアートの総合的な企画展です。これらは特定の地域でかなりの期間にわたって開催されている大規模なものであり、自治体やNPOが主催している小規模なものは無数にあります。あるいは、お祭りや何かの行事に合わせてワークショップのようなことをするのもアート・プロジェクトと呼ばれたりしています。ここには、町づくりや地域おこし、コミュニティの創出などという理念が反映されているように思われます。

 かつてはこういう現象はありませんでした。大衆が美術作品に接する場は、おおむね美術館や画廊、つまりは展覧会に限定されていました。パブリックアートという分野も開拓されはしましたが、そのイメージは、せいぜい駅前の野外彫刻に代表されるものだったのではなかったかと思われます。さらにパフォーマンスアートというのは、特別に関心を持っている人たちの集まりという、閉鎖的な雰囲気があった気がします。これらにくらべ、アート・プロジェクトには、ぽっかりと澄み渡った青空のような、健全で開放的なイメージがあります。

 けれども、それでは「アート・プロジェクト」とは何でしょうか。ここには様々な解釈が考えられますが、おそらくキーワードはコミュニケーション、または「参加」という言葉ではないかという気がします。そして、そこには何かの目的が意図されている点が共通していると思われます。

 芸術には目的はなく、強いて言えば、それ自体に意味や目的が内在しているという考えは古くからありました。いわゆる芸術至上主義というのは、ここから生まれたものでしょう。これが世俗の権力や大衆性から芸術を隔離し擁護する論拠となったと同時に、意味や有効性を限定してきた歴史は説明するまでもありません。アート・プロジェクトは今、そのような芸術の固着した概念を再考し可能性を拡げるものとして注目されています。

 しかし、多くのアート・プロジェクトが標榜しているコミュニケーションや「参加」ということの意味や実態がどれだけ捉えられているのかということは気になります。

 進めて言えば、ここにはコミュニケーションの内実を問うことが希薄なコミュニケーション至上主義や、とりあえずは行事に関わりを持たせることが目的の参加第一主義がほの見えている気がします。「至上主義」というのは、意味は問わないということでしょうから、それらは単に芸術至上主義の看板を差し替えたに過ぎないおそれもあります。

 イベントなのだから、まずは楽しくやることが大事、という精神はもっともと思われますが、その結果、人々にどのような関係性が生まれるのかということは綿密に検証されるべきでしょう。

 アート・プロジェクトの隆盛は、美術教育の世界にも明瞭に及んでいます。現象面としては、教室から学校全体、さらには地域へと活動が拡がっていく傾向。理念の問題としては、自己表現という図工・美術の中核論理に共同的観点を導入した点です。これは「他者理解」という文脈で教育的な意義づけがされています。

 そして、そのような、いわば実利や結果に傾斜し、図工・美術教育を手段化していくことが、芸術や表現にとってどのような影響があるのかという視点をしっかりと保持していくべきと考えます。

 今日、アート・プロジェクトは図工・美術教育の可能性を拡げ、その意味を社会にアピールする絶好の機会であり、方法であることから、多くの期待が寄せられています。それゆえ、その理念や方法に関する多角的な議論が必要と考えます。

 そこでこの号では、「アート・プロジェクトって何?」というテーマで、各地のアート・プロジェクトを紹介するとともに、図工・美術教育におけるその意味やあり方について考えてみたいと思います。


11月号 美育インタビュー

コスチューム・アーティスト ひびのこづえ さん
  たしかに個人のベースになるものとして子どもの頃の感性は大切だと思います。でも、子どものままで時間が止まってしまうのはよいことではなく、砂場で作ったものがそのまま立体彫刻になるわけではないので す。単純にはくくれない面があるでしょう。また、大人の理屈で子どもをまとめてしまうのはよくないですね。
  でも、教育全体の考え方としては、必ずしもそうではなくて、すべての子どもを同じような方向に向わせようとしている気がしてなりません。子どもも本来は一人の人間なので、一人一人がバラバラでかまわないはずですよね。それを大きなザルですくってまとめようというのは無理があります。どうしたってこぼれちゃいますよね。私なんか、まさにそうですから(笑)。…続きは本誌で

表紙:
第39回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「民族衣装をまとった女性たち」
ジュアン・マテオ・シェルムラス
アルゼンチン 14歳男

表紙

裏表紙:
第39回世界児童画展
国内の部・全国造形教育連盟賞受賞作品
「バラック小屋の女の子」 木山 紗季
南アフリカ共和国・ヨハネスブルグ
日本人学校 小学校4年女

裏表紙

 

目次

特集  アート・プロジェクトって何?

美育インタビュー
コスチューム・アーティスト ひびのこづえさん…7

美術教育におけるアートプロジェクトの意味 柳沼 宏寿…13
アート・プロジェクトの再考ー〈うしく〉の試みからー 後藤 雅宣…20
子どもの思いが人と人をつなぐ 栗城 敦志…26
真夏の学校 美術館になる 未至磨明弘…30
アートプロジェクトは美術教育の諸問題を解決する 中平 千尋…34

美術教育ルポ
  東京都図画工作研究会特別委員会「妻有プロジェクト2009」
    晴れた日には晴れの、雨の日には雨の姿がある。
     とずけん2009妻有鑑賞研修会レポート 辻  政博…40

授業研究 ●千葉県
幼児 つくりんぼのへやで遊ぼう!…槇 英子…46
小学校低学年 ならべてならべて、種のオンパレード…為我井直子…48
小学校中学年 絵本大好き!…島田ひとみ…50
小学校高学年 ぐんぐん広がれ!わたしのイメージ…笠井 由紀…52
中学校 ファイルの表紙に「Myマーク」…辻  里枝…54



熊本文庫主要文献解題 美術教育論の変遷とその周辺21…56
齊藤暁子+新関伸也+降籏 孝+小橋暁子+
鈴木幹雄+大橋 功+穴澤秀隆+神谷睦代+
大成哲雄+永守基樹+山口喜雄+天形 健+
藤崎典子+小野浩司+藤澤英昭+北澤俊之+
上野美津穂+佐々木大次郎+福本謹一

連載
〈美術/教育〉の扉をひらくー新しい社会文化システムの中へー
第6回 論争のなかから(下)―「戦後美術教育の位相論争」
(1997~99)を手がかりに―  長田 謙一 …66

連載
Computer Now File 0045
映像・動画、デジタルの利便性に焦点化 安藤 誠也…72

美育文化総目次2009…74

連載
幼児のひろば 第27回
広島・呉市・焼山こばと幼稚園 副園長 水原 紫乃…6・81

美育ニュース…76




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