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2009 5月号

特集 対話としての授業

  近年、「対話型鑑賞教育」という鑑賞教育の手法が注目されています。美術作品を前にして、その印象を自由に述べ合うというスタイルの授業です。
  この種の授業では、作品の鑑賞という体験を通じて、他人の意見を尊重したり、自分の理解や印象を一層深めていくことができます。

  美術教育には、さまざまな指導法と言われるものがあることを私たちは知っています。いえ、研究会で話題になることのほとんどは、指導方法だと言っていいでしょう。どんなことを…、どのように…、いかに子どものやる気を…、何に関する能力を…、そして、美術教育はどうあるべきか…。これらの議論が真摯なものであることは疑い得ません。今日の図工・美術の教育は、このような地道な実践の上に築き上げられたものでしょう。

  しかし、その一方、このような議論がいつも同じところを巡るばかりで、じつはあまり進展していないのではないかといういらだちを感じることがあります。そのひとつの原因は、これらが「教える」ことをめぐる言説だからではないでしょうか。

  「教える」というのは、多くの場合、ある世界の内部構造を解説することだと考えられます。このため、「教える」ことは、原理的には、一方通行であり、留守番電話への伝言みたいなものになってしまう恐れがあります。大切なのは「伝わる」ことでしょう。「どう教えたか」ということには、おそらくアリバイ的な意味しかなく、教室では「どう伝わったか」だけが問われている気がします。

  では、「伝わる」という状況の本質は何でしょうか。そこでは、コミュニケーションの基本である「対話」が不可欠と思われます。授業の目的が「伝わる」ことにあるならば、そこに「対話」があるのは当然で
す。「対話型鑑賞教育」も、対話の重要性に注目したことにより成果をあげている気がします。

  経験豊かな教師の授業が、「対話の豊かさ」によって、裏打ちされていることに、私たちはしばしば思い当たることがあります。そこでは、子どもたちは「先生との対話」を楽しんでおり、活発な反応が見られます。
  図工・美術の授業における、「指導」と「作品」あるいは「活動」の関係も、ある種の「対話」だと捉えることが可能でしょう。

  他方、にぎやかで活発な反応だけが、「対話」のあり方ではないと思われます。しっとり落ち着いた話しぶりや、たどたどしく話す子どもの言葉に、じっくり耳を傾ける姿勢も尊重されるべきです。また、その際の表情、しぐさなども対話を構成する要素となります。

  このように考えるとき、「授業における対話」は、最早、指導法やテクニックの問題ではない気がしてきます。
  それは、「子どもと如何に関わるのか」という教師の姿勢の総体なのではないでしょうか。
  そこで、この号では、「対話」を通じて子どもの豊かな造形活動を保障していく授業について考えてみたいと思います。



5月号 美育インタビュー

英文学者・画家 加島 祥造 さん
 例えば、教師と子どもが自然の美しさや神秘を語り合うこと、先生と子どもたちが、そこでいかに会話をするか、喜びを感じ合えるか、これは興味深いテーマになる気がするな。ただし、それには、教師自身がつくづく「きれいだなあ」「不思議だなあ」と感じる必要がある。自然の美や不思議さを知的レベルで解釈して、口先で教えようとしても子どもの共感は得られない。未知なものに対する敬意とか驚きこそが大切だ。
 山の絵を描く前にはまず山の自然力を感じるべきだ。そこにはライブ・バイブレーションがあるからね。でも、学校の美術教育では、それが逆転して、絵を描くために山を見るというようになっちゃってる。ネイチャーというものが、いかに美しいものかは、形じゃなくて人間の実感から始めるべきだろうね。…続きは本誌で


表紙:
第39回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「雨の多い森に住む猫」
マディソン・エリザベス・マラー
アメリカ 11歳女

表紙

裏表紙:
第39回世界児童画展
国内の部・美育文化協会賞受賞作品
「ゆめのとびら」 山下 夏奈
ドイツ・デュッセルドルフ日本人学校
小学校2年女

裏表紙

 

目次

特集  対話としての授業
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美育インタビュー 英文学者・画家 加島 祥造さん…7
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世界を開くメディアとしての図画・工作 矢野 智司…13
対話をうながす「問いの一撃」はなぜ必要か  対話による美術鑑賞 上野 行一…18
イメージによる経験の連なりと対話への志向 赤木 恭子…22
「作品」と仲良くなるということ 阿部 宏行…28
いっしょに見るという〈対話〉 北澤  晃…29
日本語でする対話 齋  正弘…30
立ち止まり耳を澄まそう 佐藤完兒郎…31
seeとhappy 洲崎 早苗…32
図工・美術に対話の必要なわけ 寺尾  堂…33
頭足人から始まる創作空間 鈴木  斉…34
小学校1年生における“対話”を重視した鑑賞活動 磯部 征尊…36
じっくり見てみよう 江口 和良…38
子どもと子どもの「あいだ」にある可能性が現れ出すとき 立川 泰史…40
対話で学び合う造形活動 仲嶺 盛之…42
造形活動を通した対話 桐山 卓也…44
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熊本文庫主要文献解題 美術教育論の変遷とその周辺19…46
新関伸也+矼 秀年+春日明夫+藤澤英昭+
永守基樹+神谷睦代+山口喜雄+大島賢一+
柴田和豊+天形 健+福本謹一+武藤篤美
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授業研究   ●埼玉県
幼児 エルマーと竜のごっこ遊びを通して 田中 芙美子…52
小学校低学年 びり びり びり やぶいて ちぎって 井上 陽子…54
小学校中学年 ダンボールロードからひみつ基地 河田まさみ…56
小学校高学年 能動的なかかわりを通して感性を育む鑑賞活動 鈴木勢津子…58
中学校 変わり兜の世界 長峯絵里子…60
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連載 〈美術/教育〉の扉をひらく ー新しい社会文化システムの中へー
第3回 子どもたちの「ことば」と「生きる力」 長田 謙一
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連 載
computer now     File 0043
  デジタルショートストーリーをつくろう 大島 孝明…68
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BOOKS
新刊紹介 宮脇  理…70
『バウハウスと戦後ドイツ芸術大学改革』 鈴木幹雄・長谷川哲哉 編著
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●追悼 太田昭雄先生を偲んで 仲瀬 律久…71
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連 載
幼児のひろば 第24回 千葉・千葉市・磯辺白百合
幼稚園    槇  英子…6・81
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NEWS 美育ニュース…72
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