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2010 5月号

特集 新しい先生に役立つ、かも

 今日、教育現場の世代交代が取り沙汰されています。
いわゆる団塊の世代が退職年齢を迎え、ベテランの先生たちが大量に教職を去ると同時に、教育に情熱を抱いた多くの若い人たちが採用されはじめています。
ここには、人を教え育てることを生涯の職業として選択することに、実利的な職種では得難い魅力とやり甲斐を感じている人たちの情熱が感じられます。それは若い世代のみならず、おそらく近代教育が生まれる以前から、教育に携わる人たちを捉え、支え続けてきた使命感であったと思われます。

 しかし、今日、世代交代によって学校に変動が起こっていることを指摘する声も聞かれます。これは単なる経験の多寡を問題にしているだけではなく、今日、社会的風潮として実利が優先され、本来は経済原理であった結果主義や能力主義が教育の現場においても台頭していることで、意識の相違が生まれていることを懸念した視線であるようにも思えます。

 他方、学校への期待の背景には、かつては家庭や地域社会が担っていた教育力があからさまに低下している状況があり、責任の増加にともなう管理体制の強化など、教員はかつてなかったほどの厳しい環境におかれていると言われています。
このため、せっかく希望をもって、教師になった若い先生たちが短期間で教壇を去っていくという深刻な事態すら起きていると聞きます。
学校には、現場教師の工夫と経験により培われた「教育文化」や「学校文化」という叡知があります。私たちは、この文化を擁護し伝承する努力をすべきでしょう。そして「新しい先生に役立つ」ことを伝える必要があります。

 ところで、今回は特集テーマとして「新しい先生に役立つ、かも」というフレーズを論議の末に選びました。
自信がないわけでも、遠慮しているからでもありません。ましてや冗談めかしてそう言うのでもないのです。
あらゆる現場に通用し、すべての子どもたちに即応する特効薬のような指導方法を紹介することを私たちは見つけられませんでした。それはおそらく不可能でしょう。いえ、たとえある程度確信を持っていたにせよ、それをあまねく人に強制することを恐れます。それはなぜか。

 教育学の知見は、教師の働きかけが、いつ、いかなる、効果として子どもに獲得されるのかをつまびらかにしていません。
ですから、私たちは、教師のひと言が子どもにどんな影響を及ぼすかは、じつはわからないという恐れの中で、日々の授業をしています。
しかし、それを恐れる故に、悪い影響を懸念し、よりよい指導法を探求し続けていることは、まったくたしかなことです。

 私にはたしかに役立ったけれど…あなたには…そうね、どうかしら…
もしかしたら、役立つかもよ

 教師としても人間としても、私たちは、じつはこの程度にしか、人にものを伝えることはできないのではないでしょうか。
このとき「かも…」は弱々しい予測に聞こえます。けれども、その背後には、ぜひとも伝えたいという切実な思いがほてっています。
その熱が伝導することを願って、この特集を企画しました。


5月号 美育インタビュー

詩 人 まど・みちお さん
 若い頃から詩も絵も自己流で書いてきました。そうしたら、知らぬ間に百歳になっちゃった(笑)。
 子どもというのは、ほんとうに小さいときから絵を描くものですよね。きっと絵は子どもにとってなくてはならないものなのでしょう。そうだとすると、にんげんに限らず、ひょっとすると、あらゆる生き物の子どもは絵を描いたりしてるのかもしれませんね。…続きは本誌で

表紙:
第40回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「泣いている女の子」
ワシレンコ・イブゲニア
ベラルーシ 6歳 女

表紙

裏表紙:
第40回世界児童画展
国内の部・文部科学大臣奨励賞受賞作品
「東京タワーのような新かんせんタワー」
菊地 啓太
東京・北区立王子小学校4年

裏表紙

 

目次

詩 人 まど・みちお さん…7

成熟した社会における新しい教師像を求めて!…佐々木達行…13
新しい先生のために…浜本 昌宏…16
なぜデモシカ先生は成長できたのか…新井 哲夫…18
風に吹かれて…及川 賢一…20
新任小学校教師、君へ。…八ツ橋洋一…22
美術はなんか違うぞ…上林 忠夫…24
熱き美術教師に!…朝倉 俊輔…26
子どもは問う、わたしは問いつづける。…横内 克之…28
図工室で考える…高橋 香苗…30
教師が自己満足する授業からの脱却…大橋  功…32
すごいぞ! すごいぞ! 若い図工・美術教師達の力!…武藤 篤美…34
ルーキー先生に贈る言葉…吉田 貴富…36
いろいろやって、「得意」を増やそう…北川 智久…38
「心」ある表現をもとめて…西井惠美子…40
子どもを受けとめる手助けに…郡司 明子…42
異文化交流、そして、「活用」のススメ…栗原 理恵…44
子どもの心を見る…近藤 美輪…45
図工室のオトナ…宮内  愛…46
つながることで広がる授業…秋元ゆかり…47
悩みながら進んでいこう…飯尾 美希…48
「きっと、すてきなことですよ」…加藤  真…49
生徒と共に考える「美術教育」という作品…浅見 俊哉…50
他者の視点を取り入れること…藤原 智也…51
「子ども中心主義」で行こう…鈴石 弘之…52

授業研究 ●北海道
幼児 生活イメージ展…坂本 行正…56
小学校低学年 ムク ムク パッ!…吉伊 宏子…58
小学校中学年 つなげる・つながる・レインボー!…濱口 裕子…60
小学校高学年 きもちをかたちに…千葉紗希子…62
中学校 心の肖像を描く…平井  歩…64

熊本文庫主要文献解題 美術教育論の変遷とその周辺22…66
鈴木幹雄+天形 健+新関伸也+上野美津穂+
山口喜雄+永守基樹+降籏 孝+福本謹一

BOOKS 新刊紹介
宮脇  理…70
『テクストとイマージュの肌膚』 渡邊晃一 著

連 載
幼児のひろば 第28回
神奈川・相模原市・誠心相陽幼稚園 副園長 吉村 充代…6・81

美育ニュース…71

*Computer Nowは休載しました。また、「〈美術/教育〉の扉をひらく」は執筆者の都合により休載しました。




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