昨年の3月11日の東日本大震災は、単なる自然災害としての影響を超え、否応なく私たちの文化・文明のパラダイムを問い直す意味を持ちました。けれども、原発事故の対応は依然として進展しておらず、被災地の復興も根底的には、多くの課題を抱えています。
つまり、現時点での新しい世界像は見えていません。ここには、世界児童画展がスタートした1970年頃の不確かなりとも多くの人が将来への展望を持ちえていた時代とのちがいが感じられます。私たちは希望的な眼差しをもって未来を見据えることがますます困難な状況に直面している気がします。
ここではおそらく従来の経済的な成長戦略という路線のなかで世界のあり方を構想する方法そのものの限界点が見え始めているようにも思えます。「戦略」ではなく、人類の「合意」を形成する感性の基盤が求められている気がしてなりません。
ところで、子どもの表現には、それが万人の記憶であるという側面があります。これは、子どもたちは現に子どもであり、大人もかつては子どもであったという単純な事実に基づくものであり、それゆえ、人種、民族、性別を問わず、万人が共有できる感性のテーブルとなりえます。
同一性よりも差異に、一般性よりも個別的観点に目が向けられがちな今日の文化状況にあって、この平明さは、説得力を有し、人々の共感を呼び、感性的合意を形成する可能性も持っていると私たちは考えます。
私ども主催者は、この展覧会を42年にわたり開催してきたことに誇りと責任を感じています。けれどもそれに安住することなく、子どもたちの絵に、新しい時代感覚を見出したいと思っています。
子どもの表現の中に変わらぬ豊かさやぬくもりに接する一方で、未来を切り開いていく鋭く、しなやかな感性があります。この展覧会を通じてそれらが育っていくことを願っています。
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特集 第42回世界児童画展
内閣総理大臣賞受賞作品…3
文部科学大臣奨励賞受賞作品…3
外務大臣賞受賞作品…7
国内の部優秀作品…15
海外の部優秀作品…23
国内の部応募状況…35
概要・審査員一覧…36
第41回国内展開催地一覧(2011年)…37
国内の部特別賞受賞者名簿…38
海外の部応募状況…41
国内の部審査講評…42
海外の部審査講評…46
優秀賞受賞者の声「こんな気持ちで、描いたよ。」…51
文部科学大臣奨励賞(団体の部)受賞の背景…54
第42回世界児童画展 優秀作品解説…60
鈴石 弘之+辻 政博+水島 尚喜
連載 図説 子どもART学 辻 政博…68
第5回 戦後の児童画の発見と造形遊びによる子どもの再発見
●東日本大震災 復興日誌 第5回 小野 浩司…74
BOOKS 新刊紹介 東良 雅人…76
『図工室へいこう2』
NEWS 美育ニュース…77
*授業研究、幼児のひろば、連載〈美術/教育〉の扉をひらく、は休載しました。